注目のお笑いコンビを紹介する『OWARAI Bros.出張版これからの芸人百景』第7回は、『M-1グランプリ 2021』(テレビ朝日系)でトップバッターを担い、一気に地上へ昇り出たモグライダー。ネタ順を決める笑神籤が引かれた瞬間、ほかのファイナリストが立ち上がって「いける、いける!」と彼らに声援を送った。芸人界で面白いと言われ続けていた彼らが、ようやく決勝の舞台へ。決勝に行けた理由はどうやらネタ云々よりも、各々の性格と意識、ふたりの関係性の変化が肝になったらしい。
企画・構成/竹村真奈 村上由恵(タイムマシンラボ)取材・文/佐々木 笑 撮影/池ノ谷侑花(ゆかい)
目次
■コロナ禍で、“自分らが存在してる意義”を考えた
──モグライダーさんは芸人仲間からとても愛されている印象ですが、周りからの言葉で「期待を背負っているな」と強く印象に残っているものはありますか?
芝 カズレーザーが、売れたときに各所で「モグライダーが売れるのを待っている」と話してくれていて、それをテレビで観た地元の人たちから「カズレーザーが待ってるらしいじゃん」って連絡が来ました。ほかにも永野さんとか、売れている方がよく名前を出してくれていて。
ともしげ 狩野英孝さんもそうだね。
芝 そうね。なのにいつも俺らは不甲斐なかったから、申し訳なくて。
──「悔しい」より「申し訳ない」のほうが大きかった?
芝 そっちのほうが強かったかもしれないです。
ともしげ メイプル超合金、ウエストランド、カミナリ、トム・ブラウン、ぺこぱとかは、僕らがやっていた「東部第33部隊」っていうライブにゲストで出てくれていたんです。僕たちは、ゲストがみんな華々しくファイナリストにとして旅立っていくのを、ただ見送るだけの人たちになっていて。
──うだつのあがらない状況から、ようやく「『M-1』に真摯に向き合えた」と各所で仰っていますが、意識が変わる大きなきっかけがあったのですか?
芝 コロナで緊急事態宣言が出たとき、2、3カ月仕事がなくなったんです。
ともしげ バイトすらもなくなって、本当にやることがなくなったよね。
芝 不要不急って言葉が出たとき、「お笑いライブって絶対になくてはいけないものなのか?」って考えがよぎり始めて、このままだと、俺らが存在してる意義がないなと。漫才もライブも好きだからやりたいけど、必要とされるためには面白くなくてはいけないし、売れていなきゃいけない。じゃあ結局「『M-1』を獲るしかない」って、ふたりで初めて口に出しました。
ともしげ それまで僕はTシャツと裸足だったんですけど、そのときに衣装も変えました。
──靴を履かれたきっかけ、気になっていました。
ともしげ コロナでの衛生的なところもありますし、やっぱり真剣味がないじゃないですか? それこそ、ぺこぱが着物を脱いでスーツを着出したのにも影響されました。
芝 歳もとってるし、そういう笑いを取りに行く自分らを客観的に見たときに、哀れに思えてきて(笑)。
ともしげ 大きく“33”って書いてるTシャツを着ていたので、「今何歳?」「○歳」「33歳じゃねえのかよ」ってボケもあったんですけど、僕も39歳になっちゃって……。
芝 「39歳」はもう、数字ボケとしても離れすぎちゃって(笑)。そういう要らないものを全部とってシンプルにウケたいと思ったら『M-1』に向き合うことになりました。
■プロの定義を考えたら生まれた「悔しい」という感情
──今まで『M-1』以外に目指していることがあったんでしょうか?
ともしげ というより、YouTubeも向いてないし、特技もないし、漫才以外に何ができるんだ?って消去法で考えたら『M-1』が残った感じです。番組に呼ばれてもハネずに終わっちゃって、これはネタがちゃんとしてないからだろうな……と痛感したんです。僕たちは今まで「ウケてるからいいや」と思って余裕でタイムオーバーもしてたけど、ミルクボーイとかぺこぱとかはちゃんと短い尺で、わかりやすくて面白いネタを作ってる。
芝 “プロ”の芸人さんだよね。俺らはプロを名乗れるかって言われたら、自信ないよねって話を最初にしたよね。
──その、“プロ”の定義とは?
芝 求められていることをやったうえで、プラスアルファで返すこと。そもそも俺らの芸風って、できることとできないことを探っていったら、できることが1個もなくてたどり着いたものなんです。その考えに立ち返って自分が今できることのMAXを考えたら「漫才をちゃんと作って、それがウケる方法を選んで、わかりやすく結果を出す」だったんです。
ともしげ 2020年にウエストランドとか錦鯉とか近しい人たちが決勝にいったのも大きかったです。置いてかれて悔しかった。
芝 初めて『M-1』で悔しいって思った。これまで、そこまで悔しいと思ったことがなかったんです。
■変わったのは、ネタではなく性格
──プライベートも影響しているんでしょうか?
芝 意識はしてなかったですけど、僕は子どもが生まれたのも影響があったかもしれないですね。コロナ禍前は家に帰らない生活をしていたので、ちゃんと親をやれないだろうなって思ってたし、周りにもそう言われてたんです。でも、ちょうど外に遊びにいけない時期と子どもが生まれるタイミングが重なって、ちゃんと親をしていたら、周りから「顔変わったね」って言われるようになったんです。
ともしげ 僕も、芝くんも大人になったなって思いますね。昔だったら、こういうインタビューもふざけちゃうことが多かったんですけど、今も真摯に向き合って答えてる姿を見て……本当は恥ずかしいんだろうなって。最近、仕事量が増えてきたのもあって、僕とマネージャーのためにLINEも始めてくれました。借金までして、ギンギンマル長谷川に付いてきてもらって、いい携帯を買って……。
──ギンギンマル長谷川……?
芝 ザ・ギンギンマルの長谷川です。……記事になるか? ギンギンマル長谷川。
ともしげ ギンギンマル(注:ラフィーネプロモーション所属の芸人コンビ)、この間復活したんです! それも僕たちの力になってますから。
芝 ギンギンマルの話になっちゃってるから!
ともしげ すみません……(笑)。
芝 コロナで仕事がないときにふたりでずっと公園で喋ってたんですけど、そのとき、ネタを作るよりも、そんな話ばっかりをしてたんですよ。素直に人の話を聞くとか最低限のことをして、お互い年相応の中身にならないとって。俺にとっても、この人にとっても、それがデカかったんだと思います。
── 決勝にいけた要因として、漫才自体というよりも、おふたりの性格が変わった?
芝 そうですね。漫才は、やれることがあれしかないから変わらないんです。結局、気持ちがちゃんと整っていないと、どれだけいいネタができようがダメだなって。漫才は人同士の仕事ですしね。
■芝「12年間、ともしげのことしか考えてこなかった」
──そういう話し合いをするようになってから、おふたりは仲良くなりましたか?
ともしげ シンプルに長い時間一緒にいるようになったし、電話やLINEも頻繁にするようになりました。時間が長くなったら、芝くんの思っていることが今まで以上にわかるようになりましたね。
芝 大袈裟ではなくて、俺はコンビを組んでから12年間、ともしげのことしか考えてこなかったんです。ずっと、対ともしげ用の脳みそなんですよ。大体のことは前からわかってたんで、ガッツリ喋るようになってから仲が深まったとかはあんまり感じないけど、目的をちゃんと揃えることができました。
ともしげ 見る方向みたいなものがね。あと、僕がいっぱい芝くんに質問できるようになった。怖いからあんまり聞かないでおこうって思ってた時期もあったんですけど、聞いたら話してくれるし。
──怖い部分が?
ともしげ なんか、怒ってるのかな……って思う時期が。
芝 怒ってはいますよ(笑)? 「今コイツ、間を埋めるためだけに話してるな」とかもわかるんで、そういうときは無視してたんですよ。
ともしげ 芝くんは間を怖がらないから、喋らないことがあるんだよね。タバコ吸ってくれるとストレスがなくなるから、機嫌を取るために喫煙所に誘うこともしています。
芝 優勝賞金1000万円が入ったら(取材は2021年12月16日に行った)、でっかいタバコ型の喫煙所を作ってください。
ともしげ ネタの変化で言うと、ライブ「東部第33部隊」の企画コーナー(注:細川たかしさんのポスターの髪部分に貼られた黒い付箋をひとりひとり剥がしていき、最初に生え際を出した人が負けなど、スターにちなんだ企画が好評だった)をそのままネタにしたようなものを芝くんが作ってくれたんです。そこからモグライダーは調子がよくなりました。3、4分でもしっかり面白さが伝わるようになったと思うんです。
──ネタが『M-1』仕様になり、気持ちの面でも生まれ変わったモグライダーさんの一番のウリを教えてください。
ともしげ いろんな地域のライブにいっぱい出させてもらったこともあり、テレビでもわかりやすい、老若男女にウケるようなネタになったんじゃないかなと思っています。
芝 より、性格が出るネタになった気はします。ネタを観た人に、「この人たち、このまんまの人間なんだろうな」と思ってもらえると思います。最近は、スターの生活を勝手に心配して、余計な解決方法をコイツが考えて、それに俺が付き合うってネタをやっているんですけど、私生活もそういう十何年だった。俺は基本的にめんどくさがりでなんにもしないんですけど、ともしげは逆に、なんにもできないけど動きはする。ともしげが散らかした後を、「も〜っ」て言いながら片したり、頭下げて回っていた感じでずっと来てて、それがそのまま出るような漫才になりました。
──そのお話、子育てにも通ずるところがありそうですね。
芝 ちょっと思ったことあります。ああ、子どももともしげも、どっちも同じだなって。
──2回戦後の『M-1』公式インタビューでは、「言葉のわからない1歳の子どもに、試しでおどけたら笑わなかったけど、100の森 進一さんのモノマネをしたらウケた。人は100を見せないと笑わないんだ」ということを仰っていたのも印象的でした。モグライダーさんのネタも、ともしげさんが100でテンパっているように見えるとき、芝さんの100のツッコミが出たときが、一番面白いといいますか。
芝 本当にそうですね。自分で勝手にセーブして、こんくらいの感じだろってやるのが一番よくない。そのことに子育てを通して気づけた自分は、運がよかったです。万物が師匠です。……ちょっと身の丈に合わないオチをつけてしまいましたが(笑)。
モグライダー●芝 大輔(1983年7月25日生まれ、愛媛県出身)と、ともしげ(1982年5月31日生まれ、埼玉県出身)が出会い、2009年にコンビ結成。2021年、マセキ芸能社でナイツ以来の快挙と言われる『M−1グランプリ』決勝進出を果たす。ツッコミとエラーと呼ばれる唯一無二のネタに磨きをかけた漫才で爪痕を残し、メディアに引っ張りだこに。YouTube『マセキ芸能社公式チャンネル』でネタ動画を配信中。
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