アップルは児童虐待(いわゆる児童ポルノ)対策のためにiCloudにアップロードされる画像をスキャンする方針を発表し、様々な方面から批判を集めています。
そんななか、アップルがCSAM(子供を巻き込んだ性的に露骨な活動を描くコンテンツ)を検出するため、2019年からiCloudメールの添付ファイルをスキャンしていることを認めたと伝えられています。その一方で、iCloud画像やiCloudバックアップはスキャンしていないとのことです。
この声明はアップルの不正防止責任者Eric Friedman氏が、自社サービスが「児童ポルノ写真を配布するための最大の温床になっている」と述べる社内メールが発覚した(Epic Gamesとの訴訟で提出された証拠から発掘)件を受けて、米9to5Macが問い合わせたことに対して回答されたものです。すなわちiCloudの写真をスキャンしていないのであれば、どうやって温床になっていると分かったんだ?というわけです。
9to5Macいわく、他にもアップルがiCloudメールのスキャンを行っているらしき手がかりはいくつもあったとのことです。たとえば「子供の安全」ページ(Webアーカイブ)には、「アップルは画像照合技術を使って児童搾取の発見と報告を支援しています。電子メールのスパムフィルターのように、Appleのシステムは電子署名を使って児童搾取の疑いがあるものを見つけ出します」との一節が確認できます。
さらにアップルの最高プライバシー責任者であるJane Horvath氏は、2020年1月に「アップルはスクリーニング(集団をふるいにかけて目的物を探す)技術を使って違法画像を探している」と述べたとの報道もあったとのことです。
これらにつきアップルは、Friedman氏の発言にノーコメントの一方で、iCloud画像をスキャンしたことはないと回答。しかし2019年以降、iCloudメールの送受信をCSAM画像を探すためスキャンしていると確認したとのことです。iCloudメールは暗号化されていないので、アップルのサーバーを通る際に添付ファイルをスキャンするのは容易だと思われます。
さらにアップルは他のデータを限定的にスキャンしていることを示唆しつつ、ごく小さな規模に留まる以外は、具体的なことを教えてくれなかったそうです。ただし「その他のデータ」にはiCloudのバックアップは含まれていないとのことです。
アップルのこうした回答を、9to5Macは責めているわけではありません。逆に上記のFriedman氏による「アップルが児童ポルノの温床」発言は確かなデータに基づいているわけではなく、ただの推論である可能性が出てきたと指摘しています。アップルが毎年CSAMに関して行っている報告は数百件にすぎず、電子メールのスキャンでは大規模な問題の証拠を捉えられていないことを意味している、とのことです。
かたや、Friedman氏の発言全文は「Facebookなどは信頼と安全性(偽アカウント)に注目しています。プライバシーに関しては、彼らは最悪です。私たちの優先順位は逆です。私たちが児童の(ポルノ)写真を配布するための最大の温床になっている理由です」というものです。
つまりFacebookやその他のクラウドサービスはプライバシー保護を棚上げしてまで児童ポルノ写真を取り締まっているが、アップルは逆にプライバシーを厳守しているために十分に取り締まれていない……と推測しているだけではないか、というわけです。
たしかにGoogleドライブの利用規約には「Google は、コンテンツが違法か否か、または Google のプログラム ポリシーに違反しているか否かを判断するために、コンテンツを審査することができます」とあり、少なくともスキャンが可能であるとは述べています(「Google によるコンテンツの審査が行われていることを前提としないでください」とも但し書きしていますが)。
またメールについても、他社は少なくとも児童ポルノ取締りについてはスキャンしていることは珍しくありません。やはりGoogleのGmailが違法な画像を見つけて、当局に通報したこともありました。
アップルは、他のハイテク大手が以前からやっている「児童ポルノ取締りはプライバシー保護よりも優先する」という方針を大がかりに発表したことで、想定以上の注目や批判を集めてしまった面もあるのかもしれません。とはいえ、常々アップルは「プライバシーは基本的人権の1つ」と標榜しているだけに、他社よりも厳しい基準を求められるのも当然とは言えそうです。
Source:9to5Mac