マーケティングと営業は、互いに齟齬がおきやすい部署だ。しかし、役割を明確にしてうまく仕事を分担すれば、会社の最終目的である売り上げへのインパクトを高めることができる。
営業を巻き込んだマーケティング主導の組織を作り、売り上げをコニカミノルタジャパンの富家翔平氏が「Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇。そのノウハウについて、事例をまじえて解説した。
3年間の取り組みで売上見込みへの貢献度は全体の約1/4に
コニカミノルタジャパンは、2017年から全社的な営業生産性向上の体制作りを進めている。大きな方針は以下の3つだ。
- 脱アナログ営業
- IT基盤の強化と活用
- マーケティング/インサイドセールスの組織の立ち上げ
これに基づき、各事業部でも生産性向上に取り組んできた。富家氏の所属するマーケティングサービス事業部が扱う商材は、以下の3つ。いずれもサービス商材で、メインターゲットはエンタープライズ企業である。
BtoBマーケティング強化のためのマーケティングチームができたのは2017年。2017年に富家氏を含めた3名のマーケティングチームができ、そこから3年間で、事業部の総パイプライン(売り上げ見込み金額)のうち、マーケティング施策によって創出したパイプラインの貢献割合24.3%を実現した。
この数値をどのように算出しているかを表したのが、以下の図だ。たとえば「ウェビナー」という施策によってリードを獲得し、商談して120万円の売り上げ見込みがついた時に、施策と商談という情報がつながることでマーケティング成果が可視化される。
1年目 立ち上げ期KGI/KPIを立て、CRM・SFAプラットフォーム、MAツールを導入
3年間の取り組みは、1年ごとの3段階に分けられる。1年目は立ち上げ期で、富家氏が当初、問題だと感じたのは、以下の2点だ。
- KGI/KPIがない
- 施策実施後の成果を計測できていない
① KGI/KPIを立てる
まず、これまでの施策に関するレポートを整理して過去の実績をまとめ、それを元にマーケティングプランを策定するところから始めた。
施策と売り上げの関連が紐づくと、案件化率やメール開封率など、指標となる数値が見えてくる。「パイプラインを何%作る」という目標をKGIとして掲げ、達成のための施策を積み上げていった。
KGI/KPIは定義するのも難しいが、設定後の計測も難しい。最大の問題は「営業がツールに入力してくれない問題」だ。これを解決するために行ったのが、以下の2点になる。
- SFAやCRMを理解してもらうためのワークショップを開催
- 履歴入力の徹底と放置商談撲滅のための積極的コミュニケーションを促進
① SFAやCRMを理解してもらうためのワークショップを開催
コニカミノルタジャパンでは、セールスフォース・ドットコムの営業支援システムSales Cloudと、MA(マーケティングオートメーション)ツールのPardot(パードット)を全社的に導入した。そのため、半年で73回のワークショップを全社で実施。
まずはCRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)が何のために必要なのか、営業活動にどう役立つのかを知らせた。さらに、全社ダッシュボードで数字を管理したり、顧客リストや商談リストを整備したりするなど、業務へ組み込んでいった。
② 履歴入力の徹底と放置商談撲滅のための積極的コミュニケーションを促進
全社的なワークショップだけでは定着しないので、事業部独自にコミュニケーションの強化を行った。
よく聞くのは、マーケティングから営業にリードを渡した後は、マーケティングはタッチしないという話。しかし、それだとその後どうなったのかがわからず、いつのまにか立ち消えになっていることもある。コニカミノルタジャパンでも、元々はマーケティングから渡したリードを各営業担当が属人的に管理していた。このため、今すぐ客ではないと判断すると放置され、そのまま自然消滅してしまうことがあった。
そこで、マーケティングチームは、コミュニケーション方法を改善するためにインサイドセールスとオペレーターを加えて5人体制に強化。そして、直接営業がフォローしないリードはインサイドセールスに戻してもらい、継続的にコミュニケーションをとるようにした。
継続的にコミュニケーションをとるためには、「営業が直接フォローする顧客」「インサイドセールスがフォローする顧客」「フォローしない顧客」の条件を明確にする必要がある。その条件は、マーケティングとインサイドセールス、営業の三者で議論しながら決めていった。
そして、マーケティングから渡した案件については、以下のようなコミュニケーションを徹底した。
ただし、これによって営業がフォローする顧客はかなり減るため、営業から反発されることもある。この場合、「インサイドセールスという言葉や役割の話から入らない方が良い」と富家氏はアドバイスする。
1年目のメインKGI「商談数」を達成
1年目に行った施策によって、新規顧客の商談数(アポイント)の獲得数は95件、前年比で約2倍という成果が得られた。
2年目 成長期数字に基づいて施策を振り返り、精度向上に取り組む
1年目に成果が出たため、会社からは「この調子でどんどん成果を出してくれ」と言われるようになる。しかし、施策を積み増ししていくだけでは限界があるため、2年目に注力したのは施策の精度向上だ。そこで、新たに次の2点を実施した。
- ダッシュボード化とデータに基づいたマーケティングプラン策定
- コンテンツとターゲティングの強化
① ダッシュボード化とデータに基づいたマーケティングプラン策定
精度を高めるためには、数字に基づいたプランニングが必要だ。そこでまず、実績をセールスフォースによってダッシュボード化した。この時、データとして必ず紐づける必要があるのは以下の3点だ。
これらのデータが紐づいていれば、「去年実施したウェビナーがきっかけで、今年受注した商談」「今年の展示会がきっかけで、来年受注予定の商談」「去年実施したメール施策で、去年受注した商談」といったことがわかるようになる。
こうして実績を可視化したうえで、次のマーケティングプランを策定し、社内に宣言した。
② コンテンツとターゲティングの強化
そして、セミナーの数を増やすのではなく、1回当たりの有望な顧客を増やすために行ったことが、ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成だ。その際、「顧客像の可視化」と「認識の共有化」のために、営業と一緒にペルソナを考えた。考えたペルソナは以下だ。
コンテンツは、それまでのセミナーや営業の提案資料を再利用するが、この時「誰に届けたいのかがメンバー間で共有されていることが重要だ」と富家氏は言う。そのためにもペルソナは作っておきたい。
その他、コニカミノルタジャパンでは以下のような施策を実施し、成果を得ている。
また、営業とのコミュニケーションが大事であることは、初年度と同様である。ペルソナ策定も営業と協力して行うが、その後も営業部の数字状況、施策の結果、ホットリードの条件や商談結果のフィードバックなど、マーケティング側から積極的にコミュニケーションをとった。
2年目のメインKGI「案件化数」を達成
こうした施策によって、2年目の2019年度には有効商談数139件を創出。前年比約141%増という成果だった。
3年目 発展期ウェビナー開催とWebサイトのリニューアル
取り組みが3年目に入った2020年、新型コロナウイルスが直撃した。ここで課題になったのが、次の点だ。
そこで、デジタルマーケティング強化に着手するに当たり、マーケティングチーム内にWebディレクターをアサインし、以下の施策を実施した。
- ウェビナーの開催
- Webサイトのリニューアル
① ウェビナーの開催
オフラインセミナーばかりの状況から、ウェビナーに切り替えた。ポイントは、以下の2点だ。
動画はアーカイブとして後からも視聴できるようにしておくと、リード獲得の期間が延びる。
また、ウェビナー開催はけっこう難しいので、「複数部署が取り組むなら、ウェビナー専任部隊を作ってノウハウを溜めるのがお勧めだ」と言う。
② Webサイトのリニューアル
Webサイトのリニューアルの目的は流入数やCV獲得数の増加で、「導線整備」「コンテンツ拡充」「SEO対策」をポイントとして取り組んだ。
また、富家氏が特に注力したのは、以下の3点だ。
リニューアル後は、アクセス解析データを管理してダッシュボード化を行った。コンテンツについては、ウェビナーの内容を動画コンテンツにする他、ダウンロード資料なども充実させている。この時、「社内で作った資料のビジュアルデザインをきれいに仕上げてもらうため、外部デザイナーの力を借りることも考えると良い」と言う。
3年目は、さらに力を入れたことがある。それが、インサイドセールスの役割の整理と体制強化、段階を追ったコミュニケーションの構築だ。
インサイドセールスの役割の整理と体制強化
体制としては、Webディレクターを加えて6名体制だったが、その後さらに強化して9名体制にした。というのも、コロナ禍の影響もあり非対面のコミュニケーションが増えた結果、インサイドセールスとMAツールの担当者の負荷が非常に上がってしまったからだ。自社のインサイドセールスが担うべき役割の整理と、体制強化が迫られた。
まず、BDR(Business Development Representative:ビジネスデベロップメントレプレゼンタティブ)と呼ばれる新規開拓のためのアポ取得などの部分は、リソース負荷が高いので、ノウハウのあるパートナーと協力体制を作る。そして、その後のフォローはマーケティング部門のインサイドセールスが行う。さらに、営業部門の中にもインサイドセールスを置いて、クロスセルやアップセルのような商談はそちらにお願いする。このように、役割を明確化して分担した。
段階を追ったコミュニケーションの構築
また富家氏は、「コロナ禍で、リードにはなるが、商談にならないお客さんが非常に増えた」と言う。このため、いきなり商談につなげようとするのではなく、段階を追ってコミュニケーションすることが重要だと考えている。
これを実施するため、マーケティングと営業とで、顧客ごとに具体的な課題やテーマの打ち合わせを行った。
3年目のメインKGI「パイプライン」も飛躍
Webサイトのリニューアルをしたことにより、Web問い合わせからの有効商談件数が前年比約2.5倍となり、パイプラインの創出金額も前年比約3.5倍という成果を得ている。Web経由の問い合わせも含めた3年間のマーケティング施策によって創出したパイプラインの貢献割合24.3%を実現した。
さらに4年目の今年は、データアナリストを加えて11名体制となり、データに基づく戦略的なマーケティング×セールスの実現という取り組みを進めている。最後に富家氏は、本セッションの内容を以下の3点にまとめ、営業を巻き込みながらマーケ側が主導することが大切だと力説した。
- マーケティングを推し進めるには営業との連携が必須
- 成果可視化と体制の構築
- 泥臭くやりきる