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ニュース いじめ対応 教育的アプローチの「限界」 いじめ加害者の出席停止の勧告等、市長による積極介入から考える

今年も、いじめの重大事案の報道が相次いだ。各ケースで目立つのは、学校や教育委員会の対応の鈍さだ。一方、旭川市で中学2年の女子生徒が凍死した事案などでは、市長が積極的な介入を模索する動きもある。私が8月に実施した調査の分析結果を踏まえつつ、学校におけるいじめ対応の「限界」を明らかにしたい。ニュース いじめ対応 教育的アプローチの「限界」 いじめ加害者の出席停止の勧告等、市長による積極介入から考える

■市長部局が駆けつける

寝屋川すごい!

今年の10月4日、いじめ対応について「寝屋川すごい!」とつぶやいたツイートが拡散し、約1万件のリツイート、2.7万件の「いいね」の反応があった。小学一年生が、寝屋川市に設置されている「監察課」にいじめ相談の手紙を送ったところ、数日後には監察課から2名の職員が学校にやってきて、迅速に対応してくれたという。

旭川女子中学生凍死事件 いじめ認知に「極めて後ろ向き」

寝屋川市の取り組みを追随しようとしているのが旭川市だ。

旭川市では今年3月、市内の公園で中学2年の廣瀬爽彩さんが凍死するという事件が起きた。背景にいじめがあったとされ、文春オンラインが4月から6月にかけて計20本を超える詳細な記事「旭川14歳少女イジメ凍死事件」を発表し、社会に衝撃が走った。

この事案では、爽彩さんが中学校入学後すぐの6月に同じ中学校の生徒ら10人に囲まれるなか自殺を図ろうと川に飛び込んで警察が駆けつけたり、爽彩さんのわいせつ画像・動画が拡散されたりと、いじめや犯罪とよぶべき出来事が確認されている。

ところが、学校がそれをいじめと認知することはなかった。11月のNHK「クローズアップ現代+」も「旭川女子中学生凍死事件~それでも『いじめはない』というのか~」と題し、いじめの認知に「極めて後ろ向きな教育現場」と批判的に報じている。

積極介入を求める声

旭川市教育委員会は、今年の5月に第三者調査委員会を設置した。いまも調査がつづけられている。

結論はまだ出ていないものの、それを待たずして10月に定例市議会で、今津寛介市長が「いじめと認識している」と公に述べて、注目を集めた(10月29日、北海道新聞)。今津市長は、いじめへの積極介入の姿勢を示しており、いじめに対応する市長直轄の部署を2023年度に創設することを目指している。学校への「勧告」などを可能にする条例の制定も検討している(12月24日、NHK)。

踏み込んだ対応を探る動きは、自治体のみにとどまらない。自民党は今月、いじめ撲滅に向けたプロジェクトチームを立ち上げ、初会合を開いた。いじめ加害者の「出席停止」制度の運用や、学校と警察との連携などについて議論を重ね、2022年6月にアクションプランを取りまとめるという(12月17日、NHK)。

■「出席停止」年間1件の闇 発令求める教員・保護者の声

中学校教員の半数近くが出席停止に賛同

自民党が目下検討し、また先述の寝屋川市では市長が「勧告」できることになった「出席停止」は、いじめ事案への積極介入の方法をめぐる重大な論点である。

出席停止とは、学校教育法第35条に定められており、当該児童生徒が性行不良でかつ他の児童生徒の教育に妨げがある場合に、教育委員会からその保護者に対して命じられる。「学校の秩序を維持し、他の児童生徒の義務教育を受ける権利を保障するという観点から設けられた制度」(文科省「出席停止制度の運用の在り方について(通知)」)である。

私が10月に公開した記事「いじめ加害者の出席停止ゼロ件 教師の半数『出席停止にすべき』」で明らかにしたように、出席停止をめぐる現況について第一に、文部科学省の統計によると、公立中学校におけるいじめ加害者の「出席停止」事案はほとんど確認されていない。公立中学校では毎年1件前後、公立小学校では1997年度以降の24年間で合計3件にとどまっている。出席停止の制度は、実質的にはもはや機能していない。

それにもかかわらず第二に、私が8月に実施したアンケート調査(調査の概要は本記事下部を参照)では、中学校教員の45.8%が「加害者を出席停止にすべき」と考えていることがわかった。国の統計では出席停止が発令される件数はほぼゼロに等しいという状況が毎年つづいてきただけに、半数近くの教員が出席停止を望んでいるとは、驚きの結果であった。

意思決定にたずさわる管理職の見解

教員「個人」の思いと、「組織」としての最終的な結論が、大きくずれている。そうだとすれば、学校組織の意思決定にかかわる校長ら管理職の思いはどうだろうか。管理職と教諭の間に、決定的な意見の分断が生じているのではないだろうか。

そこで、教員の回答を、管理職(校長、副校長・教頭)と教諭(主幹教諭、教諭、常勤講師 ※養護教諭、栄養教諭、非常勤講師などを除く)にわけて分析を進めた。その結果、小中学校全体あるいは小学校と中学校それぞれにおいて、管理職と教諭の間に大きなちがい(統計上の有意差)は確認されなかった。

教諭のみならず、組織の意思を決定する管理職においてさえ、出席停止に賛同する者が少なくない。管理職も個人の意見としては、出席停止が必要であると考えている。だが改めて、組織の最終的な決定において出席停止は発動されていない。個人の思いを超えた次元での教育界としての答えの出し方が問われている。

保護者の6割が出席停止に賛同

上記調査は、小中学校の教員以外に、生徒(中学生)や保護者(小学校/中学校)も対象にしている。その分析結果も紹介しよう。

加害者の出席停止について、中学生は中学校教員よりもやや多く、52.7%が賛同している。保護者ではその割合がさらに高くなり、小学校保護者が60.7%、中学校保護者が65.8%である。賛成多数であり、中学校では約3分の2にまで達している。あくまで保護者全体の傾向からの結論となるが、もし保護者の顔色を伺うのだとすれば、出席停止に踏み込むほうが、学校は支持を得られやすいと言える。

なお同じように、積極介入の一つである警察との連携についても、賛否をたずねている。生徒/教員/保護者の間に多少の差はあるものの、総じて6~7割の回答者が警察と連携した解決に賛同している。また小中学校の教員においては、管理職と教諭の回答傾向はほぼ同じであった。個々人の思いとしては、いじめの解決には警察の力が必要だと感じられている。

「傍観者」としての教育委員会

以上の分析からわかるように、出席停止に関しては意外にも職階を問わず個々の教員の賛意は少なくない。保護者にいたっては、賛意は6割を超えている。ところが、学校教育組織の最終的な判断として、出席件数は年間1件程度にとどまっている。

先に述べたとおり、出席停止の命令自体は、市町村教育委員会の権限と責任において実行される。出席停止をめぐる教育委員会側の対応には、現場で働く個々の教諭や管理職の思いが反映されていないと言える。

憲法学者で東京都立大学・教授の木村草太氏は、「加害者に対する強制的な出席停止処分は、教育委員会の権限」であるとして、「本来であれば、教育委員会が介入し、出席停止処分を出さねばならないはずだ。しかし、出席停止処分は、全国で年数件にとどまっている。現状、最も悪質ないじめの『傍観者』は、教育委員会ではないか」と指摘する(2019年8月18日 沖縄タイムス)。出席停止の命令が必要とされるのならば、何よりもまずは教育委員会側が積極的にそれを実行に移す姿勢が求められる。

■動かぬ教育組織

出席停止の運用に高い障壁

出席停止は、就学義務(保護者が子供に普通教育を受けさせる義務)に抵触する重大な措置である。それゆえ出席停止の発令そのものは、市町村教育委員会の権限にゆだねられている。

現場のいじめ対応に詳しい千葉大学・教授の藤川大祐氏は、「被害者が加害者と一緒にいられない場合、まず検討されるべきは加害者を動かすこと」であるにもかかわらず、その手段として教育委員会が出席停止に踏み込まない理由として、「出席停止措置の運用が難しい」ことをあげる。

「教育的アプローチの限界」

だが改めて、だからと言って加害者が学校に通いつづけ、被害者が不登校や転校を余儀なくされることは回避されるべきであり、出席停止などの対応が必須であることに変わりはない。

そこに着目したのが、寝屋川市の市長部局であった。寝屋川市は学校や教育委員会側の動きの鈍さを、「教育的アプローチの限界」と、ためらいなく表現する。

すなわち、「『教育的アプローチ』では、いじめの被害者・加害者共に指導すべき児童生徒であるため、被害者から相談があった場合、被害者・加害者の両者から事情を聞き、指導を行うことになります。結果として即効性がなく、被害者からのSOSを見逃したり、危機に十分に対応できてないケースが生じてしまいかねません」。

そこで「行政的アプローチ」として、いじめの相談・通報があった時点で監察課が被害者や保護者、学校に対して聞き取り調査をおこない、「それでも解決せず、加害者に問題があると判断した場合は『加害者の出席停止やクラス替え』などを教育委員会と学校に勧告」する。場合によっては、民事訴訟の支援や警察への告訴支援も用意しているという(寝屋川市危機管理部監察課「寝屋川市子どもたちをいじめから守るための条例」)。

■教育委員会制度を揺るがす介入

教育委員会の政治的中立性

教育委員会による出席停止が機能していないことなど「教育的アプローチの限界」に直面すると、寝屋川市やそれを追随する旭川市の首長部局による「行政的アプローチ」には、おおいに期待を寄せたくなる。「寝屋川すごい!」のツイートへの共感にも、そうした期待が映し出されているように思われる。

しかしながら、最後に重大な問題を指摘しておきたい。

「教育的アプローチの限界」と聞くと、教育委員会や教育学関係者は、心中穏やかにはいられない。首長部局による積極介入は、たんにいじめ対応を強化すること以上の、深刻な意味をもっている。なぜならそれは、教育委員会の政治的中立性をおびやかすからである。

教育委員会は、時の首長によって教育が左右されないよう、首長から独立した行政委員会としての位置付けを与えられている(文科省「教育委員会制度について」 ※参考:2014年の法改正にともなう制度改変)。いじめへの対応に限らず教育委員会は、首長から独立して、学校教育にかかわる基本方針や重要事項を決定する立場にある。

岐阜市では市長による「勧告」の条例化は実現せず

いじめ事案に対する首長の介入とは、たんなる積極的な介入としてではなく、教育委員会に対する首長の越権的な介入として読み解かなければならない。寝屋川市の取り組みや、あるいは旭川市の目下の構想は、首長部局が教育委員会に介入しようという、あるいは教育委員会を飛び越えて学校に直接的に介入しようという、教育委員会制度の根幹を揺るがしかねない試みである。

じつは岐阜県岐阜市では、2019年に市立中学校の生徒がいじめを苦に自殺したことを受け、首長が出席停止などの措置を「勧告」できるいじめ防止条例改正案が、2020年6月にまとめあげられた。

しかし、パブリックコメントにおいて教育委員会に対する首長の権限が強化されることを懸念する声が多く寄せられた。最終的に、出席停止などの「勧告」に関する規定は削除され、市長と市教育委員会が連携して対策を推進するといった文言に差し替えられたという(2020年8月29日、9月25日 岐阜新聞)。

「勧告」は字義通りにとれば、けっして強制力をもつものではない。教育委員会の政治的中立性は保持されるはずだ。だが、それでも「勧告」できることが条例に明記されることの、学校教育に与える影響はけっして小さくない。ましてや、クラス替えという明らかに現場に根ざした事項にまで、首長の「勧告」が法的正当性をもって届くのだとすれば、首長からの独立性とはいったい何なのかという疑念も生じる。

子供の安全か、教育の政治的中立性か

旭川市の今津市長は、12月29日に公開された文春オンラインの記事で、先にも紹介した、10月定例市議会における「いじめと認識している」発言について、次のように述べている。

旭川市のような個別事案を知れば知るほど、子供の「生命、権利、自由を守っていく」という今津市長の言葉が、私には重く響いてくる。教育の制度がどうであれ、そこに通う子供にとって、学校は安全・安心な場でなければならない。被害者が救われない現状は、明らかに問題だ。一方で、加害者をケアなきままにただ「厳罰」に処する方向での対応も危ういだろう。

学校や教育委員会の動きが鈍いからこそ、首長が積極介入に踏み出す。正義の味方があらわれたかのように、住民や世論は首長に賛意を示す。

子供の安全か、教育の政治的中立性か。それとも、この二項対立を乗り越える方法があるのか。教育的アプローチの限界は、子供たちの学校生活の限界に帰結する。議論にタブーは、いらない。子供の苦しみに向き合うことが先決だ。

====注記====

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