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人工的に合成した「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の無害な欠陥品」を使うことで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対抗できる可能性があるとの論文が発表されました。この「合成欠陥ウイルス」は、SARS-CoV-2の3倍の速さで自己複製してSARS-CoV-2の増殖を阻止するため、COVID-19の新しい治療法として期待できるとのことです。A synthetic defective interfering SARS-CoV-2 [PeerJ]https://peerj.com/articles/11686/Fighting COVID With COVID: Driving the Disease to Extinction With a Defective Version of the SARS-CoV-2 Virushttps://scitechdaily.com/fighting-covid-with-covid-driving-the-disease-to-extinction-with-a-defective-version-of-the-sars-cov-2-virus/COVID-19: Synthetic virus could ‘parasitize’ SARS-CoV-2https://www.medicalnewstoday.com/articles/can-we-fight-sars-cov-2-with-sars-cov-2今回新たに発表された論文で、欠陥のあるウイルスを用いてCOVID-19の治療ができる可能性を示したのは、ペンシルベニア州立大学の生物学准教授であるマルコ・アルケッティ氏らの研究チームです。アルケッティ氏の説明によると、SARS-CoV-2などのウイルスが人の細胞を攻撃する際は、まず細胞の表面にとりついて遺伝物質を細胞内に注入するとのこと。そして、細胞を乗っ取ってウイルスの遺伝物質を大量に複製させ、最後には崩壊した細胞から無数のウイルス粒子が放出されることでさらに人体内での感染が拡大していきます。
宿主の体内でウイルスの複製が繰り返されると、まれに遺伝物質の合成に失敗しウイルスのゲノムの一部が欠損することがあります。ゲノムが欠損すると、ウイルスとして振る舞うのに必要なタンパク質が合成できないので、そのウイルスは正常に増殖することができません。しかし、欠損のあるウイルスがいる細胞に正常なウイルスがやってくると、欠損があるウイルスのゲノムが正常なウイルスのゲノムを利用して増殖し、正常なウイルスに成り代わってしまう現象が発生することがあります。ゲノムに欠損のあるウイルスが、正常なウイルスの増殖を妨げる働きは学術的には「干渉」といい、この干渉を引き起こすような欠陥を持ったウイルス粒子は「欠陥干渉(DI)粒子」と呼ばれています。DI粒子がウイルスの増殖を阻止することに注目したアルケッティ氏らの研究チームは、SARS-CoV-2のゲノムを90%カットして「SARS-CoV-2のDI粒子」を開発。そのDI粒子を野生型のSARS-CoV-2、つまり正常なSARS-CoV-2に感染済みのサルの細胞に加える実験を行いました。その結果、実験開始から24時間後には正常なSARS-CoV-2の量が半分に減少する一方で、「SARS-CoV-2のDI粒子」は通常のSARS-CoV-2の3倍の速度で増殖することが確認されました。
アルケッティ氏はこの結果について「DI粒子は、欠損があるせいでSARS-CoV-2としては機能しない上、単体では増殖もできません。しかし、野生型のSARS-CoV-2と同時に感染すると、SARS-CoV-2の増殖プロセスを乗っ取ってDI粒子を複製します。しかも、ゲノムが短いおかげでSARS-CoV-2より素早く自己複製し、SARS-CoV-2の増殖を阻止してしまうのです」と説明しました。SARS-CoV-2が50%減少しただけでは、COVID-19の治療には結びつきませんが、「SARS-CoV-2のDI粒子」がSARS-CoV-2よりも素早く増殖できることから、研究チームは時間が経過するにつれてDI粒子の有効性がさらに増加していくと予想しています。アルケッティ氏は、「SARS-CoV-2のDI粒子」が抗ウイルス薬として使えるかどうかを検証するには、さらなる実験が必要だと強調した上で、「研究を進めて微調整を加えれば、合成DI粒子がCOVID-19の治療薬として使えるようになる可能性があります」と述べました。
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in サイエンス, Posted by log1l_ks
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