OECD(経済協力開発機構)は2021年6月、「中小企業・起業家見通し2021(OECD SME and Entrepreneurship Outlook 2021)」を発表した。OECDは本報告書において、各国政府が行った中小企業・起業家への政策支援を考察したうえで、パンデミックからの回復期において中小企業は引き続き苦戦を強いられているため、今後も追加の支援が必要であると指摘している。以下、報告書の概要を紹介する。
中小企業・起業家へのコロナ危機の影響
すべての企業や産業がコロナ危機の直接的・間接的な影響を受けたが、中小企業は特に大きな打撃を受けた。ロックダウン措置の影響を最も受けた産業(飲食・宿泊、運輸、その他サービスなど)の中小企業は、事業を閉鎖しなければならないことも少なくなかった。Facebook・OECD・世界銀行による共同調査(以下、「共同調査」と略記)の結果によると、2020年5月から12月に閉鎖された中小企業の割合は、飲食・宿泊業がICT(情報通信技術)産業よりも約8ポイント高かった。
事業を継続できた中小企業の多くは、収益が大幅に減少した結果、深刻な流動性(現金)不足に直面した。共同調査の結果によると、調査が行われた各時点において、55~70%の中小企業は前年同期に比べて売上の減少が見られ、3分の2は売上の減少幅が40%を超えた(図)。
図:Facebookページを開設している中小企業の売上増減(前年同月比)画像クリックで拡大表示
さらに、この期間中に多くの国でロックダウン措置が緩和されたにもかかわらず、中小企業の状況の改善はわずかであった。産業別に見ると、OECD諸国全体の平均で2020年5月から10月に売上が減少した中小企業の割合は、飲食・宿泊業が、ICT産業よりも約15ポイント、農業よりも25ポイント高かった。
一方、データ入手可能なOECD加盟16カ国のほとんどにおいて、2020年第2四半期または第3四半期の起業件数が前年同期比で大幅に落ち込んだが、日本、スウェーデン、アメリカでは逆の傾向が見られた。ただし、その後、ほとんどの国の起業件数は回復し、2020年通期の起業件数が前年に比べて減少したのは、イタリアやスペインなどの南欧諸国とポーランドのみであった。産業別に見ると、飲食・宿泊、不動産、芸術・娯楽産業では、ほぼすべての国で大幅な減少が見られた。一方、製造業や建設業では、多くの国でより早い回復が見られた。
自営業者、特定の起業家への影響が顕著
パンデミックが自営業者や特定の起業家に与えた影響は、規模の大きい企業や被用者に比べ、より深刻だった。欧州生活労働条件改善財団(Eurofound)の調査によると、パンデミック中に失業した人の割合は、従業員を持たない自営業者の場合13%であり、被用者(8%)や従業員を持つ自営業者(2.3%)よりも高かった。しかし、従業員を持つ自営業者のうち、かなりの割合(5.9%)が労働者を解雇し、従業員を持たない自営業者になっていた。また、労働時間が減少した人の割合も、被用者(27%)に比べ、従業員を持たない自営業者は53%、従業員を持つ自営業者は51%と高かった。
OECD諸国では、女性やマイノリティなどの起業家がより大きな打撃を受けている。これは、資金へのアクセスに関する問題や事業を行っている産業、コロナ危機の間に女性の家事の負担が増加したことなどを反映していると考えられる。例えば、アメリカでは2020年2月から6月の間に、女性事業主数が10%減少した一方、男性事業主数の減少幅は7%であった。また、同国における事業主の総数は2020年2月から4月にかけて22%減少したが、事業主がアフリカ系アメリカ人、ラテン系アメリカ人、アジア系アメリカ人などの有色人種の場合はそれぞれ41%、32%、26%と、より大きな減少が見られた。
中小企業、起業家への政策支援は効果的であった
各国政府の対応は迅速かつ強力で、コロナ危機の最初の打撃を和らげるのに効果的であった。緊急パッケージの規模は前例のないもので、中小企業や起業家の存続を支援するための補助金、支払い猶予、融資、融資保証など、支援措置も多岐にわたる。ほとんどのOECD諸国では、2020年に中小企業の20~40%が何らかの形で政府の支援を受けていた。ロックダウン措置の影響を最も受けた産業の中小企業や、売上が大幅に減少した中小企業が、2020年に政府の支援を受けた割合が高かった。共同調査の結果によると、飲食・宿泊業の中小企業は、ICT産業の中小企業よりも政府支援を受けた割合が約20ポイント高かった。また、前年に比べ売上が40%超減少した中小企業は、前年と同じかそれ以上の売上を上げた中小企業に比べて、政府の支援を受けた割合が約15ポイント高かった。
データ入手可能国における2021年初頭までの統計によると、これまでのところ倒産の大幅な増加は見られない。これは、倒産に関する一時的な規制を含む政府の支援措置に大きく関連している。しかし、中小企業の間で債務が積み上がり、政府の支援措置が今後解除されるにつれて倒産件数が大幅に増加し、経済に長期的な影響を及ぼす可能性がある。政府はこの問題に対処するため、存続可能な企業に対するタイムリーな債務再編や、存続不可能な企業から資源が再配分されるような効率的な清算手続きの実施などの政策を行う必要がある。
デジタル化が加速したが、セキュリティリスク等の問題も
パンデミック中に中小企業の約50%がデジタル技術やプラットフォームの使用を増加させた。ロックダウン措置により大きな打撃を受けた産業であっても、オンライン販売を行っている中小企業は、行っていない中小企業よりもはるかに優れた業績を上げている。共同調査の結果によると、製品の75%超をオンライン販売している中小企業は、製品の25%未満をオンライン販売している中小企業に比べて、2020年5月から10月に売上の減少を記録した割合が15ポイントほど低い。
中小企業においてデジタルツールの導入が加速していることは、長年の生産性格差を解消するのに役立つと思われる。しかし、加速するデジタル化は、中小企業や起業家のデジタルセキュリティリスクに対する脆弱性を露わにし、高度なサイバー攻撃に対応する備えが不十分な中小企業への攻撃が激化している。また、特に自営業者や零細企業(従業員数1~9人)はデジタル化に遅れをとり、デジタル集約型の分野の中小企業と、デジタル化が進んでいない分野の中小企業との間で、格差がさらに広がっている。すべての企業がデジタルツールによる変革の可能性を十分に活用するためには、投資格差などに対処する解決策や政策、中小企業のデジタルスキルやデータ文化、デジタルセキュリティを向上させる努力が必要である。
多くの中小企業が追加支援の必要性を表明
政府の支援は自営業者、女性やマイノリティの起業家、小規模・若年層の中小企業への支援効果が低く、既存の不平等を拡大させている。共同調査によると、OECD加盟32カ国において、2020年に政府支援を受けた割合は、設立1~2年の中小企業が33%だったのに対し、設立3~4年の中小企業は39%、設立5年以上の中小企業は45%だった。新規に設立された企業は支援を受けた割合がさらに低く、2020年に活動を開始した中小企業はわずか15%だった。また、零細企業と自営業者は、それぞれ38%と29%が支援を受けたが、他の中小企業は58%であった。
また、政府の支援を受けている中小企業の割合は、制度設定や提供メカニズムの有効性、財政能力を反映して、国ごとに大きな違いがある。政府による民間部門への直接的な財政支出がGDPに占める割合は、0.6%(メキシコ)から、14.7%(アメリカ)、18.6%(ニュージーランド)にまで及んでいる。これに加えて、大規模な信用保証スキームに出資している国もあり、ドイツやイギリスではそれぞれ最大でGDPの25%、16%を占めている。
中小企業はパンデミックとその回復段階において、引き続き苦戦を強いられている。共同調査によると、OECD加盟32カ国において、2020年12月時点で中小企業の42~96%が、今後の追加支援の必要性を表明している。封じ込め対策がより厳しい国で事業を行っている企業は、政府のさらなる支援を必要とする可能性が高い。